わたしはすでに何十回も日本に来ていますが、実は大阪に行くのは今回が初めてです。
皆さんご存知のようにわたしは日本が大好きですし、私のチームの中には何十年も日本人スタッフが在籍しています。
彼らから聞いた大阪のイメージとは「笑いと笑顔の街」。
今回、私たちを迎えてくれる方々にも話を伺うと、「大阪はナポリによく似た街。人々は笑いが好きで、楽しみたいんだ」と言われました。
だからこそ、今回のメニューには大阪と瀬戸内の食材を使うだけでなく、思わず笑みがこぼれるようなユーモアとウィットに富んだ料理をお出しします。
それこそがわたしが考える「大阪」です。
わたしは世界四大料理とは、現在の流行はさておき、イタリア料理、フランス料理、日本料理、中国料理だと思っています。
しかしフランス料理と中国料理は技術とソースを優先する傾向がありますが、イタリア料理と日本料理は素材優先で、素材に対するこだわりには相通じるものがあります。
ですからイタリア料理を学ぶ日本人が多いんですね。
実際のところ日本は、世界の中でもイタリアについでイタリア料理が美味しい国だと思っています。
今回の大阪滞在は妻のララ、息子のチャーリーも一緒ですが、チャーリーは日本食が食べたくてしょうがないみたいです。
今回のイベントのために、私のメニューは一から見直しました。
大阪で期待されるもの、大阪の文化や食材にしっかりと向き合うことが非常に重要でした。地元の食材を活かし、泉州ナスや玉ねぎ、瀬戸内の魚、堺「鷹の爪」フレッシュ・ドライ、カタシモワインフードのワインなどを使用しています。
今回大阪でお出しする料理をいくつか紹介します。まずは「The crunchy part of the Lasagna」ですが、これはわたしが少年時代にラザニアの表面の焦げた部分が大好きで、子供のころに戻ったような気持ちにさせてくれる一品。
「Beautiful, psychedelic, spin painted Veal charcoal grilled with glorious colors as a painting」は現代アートとイタリア料理の融合形ですが、黒毛和牛をグリルし、5色の美しいソースで仕上げます。
デザートの「Oops! I dropped the lemon tart」は別名「ウップス」で、実はタルト生地を割ってしまった失敗から生まれました。
しかしレストランという完全な料理とサービスが要求される空間において、不完全な割れたタルトとは感動を与えてくれるのです。日本とはシンプルな中に複雑な芸術を表現する国です。
それはわたしの料理にも共通することです。今回は大阪という特定地域の食材を使用しますが、料理のコンセプトはあくまでグローバルです。イタリア料理の根幹とは地域性なのです。
現代料理とは素材の素晴らしさや秀逸なアイディアだけにとどまりません。
美味しいだけの料理とは、次に違う美味しい料理を食べたら忘れられてしまうものだからです。しかしわたしは料理を通じて感動を伝えたい。わたしが作る料理とは劇場のような総合芸術です。
料理とは人の記憶、文化、ユーモアなど心の琴線に届くべきだと思います。
それこそが「オステリア・フランチェスカーナ」が世界中のどのレストランとも異なる点だと思います。
ぜひこのイベントに来られる皆さまにもご体験いただきたいと思います。
池田匡克 いけだまさかつ
ジャーナリスト イタリア国立ジャーナリスト協会会員
著書:「世界一のレストランオステリア・フランチェスカーナ」(河出書房新社)